2016年6月30日木曜日

ケーブルの方向性について その1

お客様から、ケーブルの方向性についてご質問を戴く事がよくあります。
話題にも良く上るこの「ケーブルの方向性」についてですが、
改めて説明したことが無かったと思いますので
この点について、私の見解を述べてみようと思います。

ケーブルの方向性で音が変わるという経験は
日常茶飯事的に感じています。

ケーブルの方向性で音が変わるはずが無い。と言うご意見や
周波数特性を方向でそれぞれに測定しても、明確な差異は測定に表れないので、その微少な差を人間が聞き取れるはずが無い。
等の意見も良く耳にします。

私の考えではケーブルの方向性と導体の方向性には一貫性は無いだろうと思っています。撚り線に用いられる導体一本一本には、確かに圧延する方向が存在しますが、それ等を圧延して細く引き延ばす行程を経て
撚り合わせる際、リールから銅線が圧延方向と同じ向きに管理(セット)
される保証はまず無いだろう、と言うのがその理由です。

単線であれば、この撚り線の様な撚り合わせによる方向性の差異は
起こらないと思いますが、線材の方向性は同様に存在します。

ケーブルのシースに印字されている文字列を宛てにしても
現在ではインクジェットで印字される方法が多くなり
中の線材の方向性が、内部導体の圧延方向を同じ向きで印刷される保証は
無いため、ロット毎に方向性が逆転して印字されてしまう可能性も有り得ます。

ですので、製品を一度聴いてみて
方向性を判断し、その向きに合わせて(特に左右を同じように)
製作するのが、最も理に適った方法だと考えています。


弊社では製品に▲印で接続方向指示を示していますが
これはあくまで推奨(お薦め)の方向であり、逆接続を否定する物ではありません。むしろ場合によっては逆接続の方が良好な結果が得られる可能性も十分にあると思います。

RCAケーブルやmini-miniケーブルと言った、両端が同じ端子を採用しているケーブルをお使いの方は、是非一度逆接続をお試し下さい。

次回は実際の製造工程で、弊社では方向性をどの様に管理しているかについてお話したいと思います。

2016年6月9日木曜日

ポータブル機器とリケーブルとの出会い(その5)

メモリ媒体を利用した日本の携帯プレーヤー市場に、大きな変革をもたらした機器が
海外からやってくる事となりました。皆さんご存じ、iPodの登場です。

初代のHDD搭載モデルは、現在でも一部マニアには人気博しているモデルですが
私が最初に購入したのは第2世代のiPod nanoの8GBモデルです。
サイズが丁度良く、waveファイルの再生に対応していたのが理由でした。

現在のプレーヤーのように24bitや96kHz、DSDと言ったハイレゾファイルには
対応していませんでしたが、16bit,44.1kHzにさえ対応してくれれば
私にとっては十分と言えました。

音質は無難なまとめ方で、破綻が少なく伸びも穏やかな感じで
ジャンルを選ばずに気軽に聴ける所が特徴だったと思います。

iPod Dock端子からLINE出力を取り出すことも出来、この音質も
ヘッドフォン出力同様、至って無難なものでした。
もう少し伸びや明晰さが出て欲しかった所ですが
そこは非圧縮音源を何処でも手軽に持ち歩けた事との
トレードオフだったと思います。

胸や内ポケットに入れて聴くことが多かった私にとっては
特に中国製DAPに比べ、重さが軽く操作性も軽快だった事は好印象でした。

しかも電池の持ちが良く、一日持ち歩いても充分に使用可能で
省電力性能が高い物だと、とても感心した記憶があります。

その後SONYからファイル転送に特定のソフトを必要としなくなった
NW-A840シリーズが登場するまで、その後購入した第四世代nanoと共に
出先でのお供にiPod nanoは活用しました。

このiPodの普及と共に、大きな影響を受けたのが
コピーガードやDRMコンテンツだったと思います。

iTuneの縛りこそありましたが、CDソースを中心とした音楽ファイルを
ほぼ自由に出し入れする事が出来たこの製品の登場は
保守的な日本の音楽市場において、いわば黒船になったのでは無いかと思います。

現在、ハイレゾダウンロードソースの殆どがDRMフリーになったのは
このiPodの大成功があったからかも知れません。

2016年6月7日火曜日

ポータブル機器とリケーブルとの出会い(その4)

MDが市場に出てから暫くすると、巷にはMP3プレーヤーなるものが登場してきました。
ご存じの通り、回転光学メディア系を用いない半導体を記憶媒体にしたプレーヤーです。

この頃のメディアプレーヤーは、メモリ容量が1~4GBと少なく
専ら、圧縮したデータを入れて容量を節約して使う事が多かったと思います。

MDを出していたSONYも、同様の圧縮方式であったATRAC3を搭載した
圧縮携帯プレーヤーを登場させましたが、
互換性の無さとCDを一々専用の圧縮方式で変換しなければならなかったので
利便性を損なう物だったと記憶しています。

その中で、KENWOOD製のプレーヤーMG-E502を購入しました。
その理由は本体メモリの他にmicroSDスロットがあり、
かつ非圧縮データであるWAVEファイルの再生に対応していた為です。

そして最大の理由がもう一つ、マスストレージタイプの転送方式だった事です。
付属の転送ファイルでしか、音声データを転送出来ない物は
経験上、専用の転送ソフトは動作が悉く重い物が多く避けることにしました。
シンプルな方法でデータを移行したかった事と
出先でファイルを自由に出し入れしたかった点も選んだ理由の一つでした。

さて、肝心の音質ですがmp3では256kbps程度まで圧縮を緩めても、音質はMD比較で今一つな印象がありました。
それに比べ、16bit,44.1kHzのwaveファイル再生は、以前のDATにも勝るとも劣らない物でした。
※しかも揺れに強い!

惜しむらくは容量が4GBと少なく、直ぐ容量が一杯になってしまう点と
microSDを足しても焼け石に水状態でした。
非圧縮データでの再生は1411kbpsとデータ量が多い所為もあって、
電池の持ちも半日と保たない事でした。

その頃に登場してきたのが中国製のTL-T51と言うモデルでした。

これは一時期人気の高かった、DUAL-DAC搭載モデルで
据え置き機の様にDACを左右独立駆動で差動動作させ、音質を向上させたモデルでした。

このモデルはヘッドフォン出力とライン出力が独立して備わっていて
特にライン出力側の質の高さに定評がありました。

スペックに惹かれ、並行輸入で入手してみましたが
肝心のヘッドフォン出力はやや割れ気味だった事と、ボリュームノブの詰めが甘いせいか
ガリが少し出る、ちょっと残念な仕様でした。

話題に上っていたライン出力の質を確認するため
アナログアンプに接続したりもしました。

当時は現在の様に、優れた薄型携帯用ヘッドフォンアンプもケーブルもあまり選択肢が
無い状況でしたので、3.5mm3極出力からRCA*2へ変換したケーブルを自分で製作し
卓上アンプへ接続し、音質を確認しました。

質は格段にこちらの方が良く、現在に於いても再生フォーマット対応に劣るとは言え
アナログ出力としての実力では、このレベルまで到達出来る携帯機種はなかなか無いと思います。

この頃から、巷で(質の満足行く)製品が無い場合に
特殊な形状のケーブルの製作依頼を受ける事が多くなってきた気がします。


次回はとうとう太平洋の向こうから、恐るべき者達がやってきます(笑)。

2016年6月4日土曜日

ポータブル機器とリケーブルとの出会い(その3)

間が開いてしまいましたが引き続き
私の経験してきたポータブルプレーヤーについてお話しします。

携帯CDプレーヤーで痛い目を見てしまった頃
SONYからMDプレーヤーが登場してきました。

SONYのWM-DT1ではアルカリ電池2本で3時間強しか保たない電池の保ちに
流石にうんざりしてきた頃でしたので、私も早速導入しました。

最初はSHARPのスロットイン機(MD-MS100)だったと記憶しています。
蓋の開閉無しで横からディスクを入れるのですが、
開口部が丸みを帯びたデザインだった所為か、
意外とディスクを入れづらかった記憶があります。

この機種は録再機でしたので、端子に光入力を備えていました。
これが現在にも残っている光ミニプラグ端子(3.5mmφ)でした。

再生するソースは据え置きのCDプレーヤーから角形<>光ミニケーブルを利用し
録音して調達したのですが、聴いてみた音質は何か違和感のある物でした。

カセットテープの様に高域が欠けたり速度がおかしく感じることこそ無いのですが、
妙な違和感と言うか、今で言うレンジ感や爽快感の様な物が
あまり感じられないのです。

この頃のMDは初期から非可逆圧縮方式をカタログに公表していましたので
おそらくこの圧縮方式の所為だろうとすぐ気付きました。

その後、録音の事を考え光角形端子を装備していたプレーヤーと専用ドッキングステーションとを接続する
MZS-R4Sにしてみたりもしましたが、音質に感じる違和感は残り続けました。

その後、社会人となる頃には
SONYのESシリーズで出ていた据え置きMDデッキ(MDS-JA3ES)を揃え
今まで同じCDから録音したMDの音が、かなり違う事に驚いた記憶があります。

圧縮フォーマットであったATRAC3も、世代を経る毎に処理能力が上がり
アルコリズムが煮詰まったお陰からか、
最初から感じていた音質の違和感が徐々に薄れていきました。

DATの頃に出た迷惑なマイクロプラグも
MDでは3.5mm3極に戻り、互換性の問題も無くなり
利便性としては有る程度満足していました。

移動が激しいと音飛びすることが多少ありましたが
ジョギングする訳ではありませんでしたので、私にとっては大した問題ではありませんでした。

最後に買った据え置き機のMDS-JA333ESは
最近、トレイ開閉が出来なくなりましたが、何とか自分で直しつつ
今でも私の父親が使い続けています。

こんな事をしている内に、徐々に大容量化を果たしてきた不揮発メモリ媒体が登場してくることになるのです。

次回につづきます。